「英単語を覚えたはずなのに、数日たつと思い出せない」と感じたことはありませんか。
「単語の意味はわかるのに、話すときにはとっさに出てこない」という悩みもあるかもしれません。こうした悩みを考えるうえで役立つのが、「長期記憶」という考え方です。
本記事では、長期記憶の意味と種類、短期記憶・ワーキングメモリとの違いを解説します。
あわせて、記憶研究でわかっていることをもとに、英単語を忘れにくくする覚え方と英会話に活かす手順を紹介します。
- 長期記憶の意味と3つの種類
- 長期記憶と短期記憶・ワーキングメモリとの違い
- 研究をもとにした、英単語を長期記憶に残りやすくする覚え方
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長期記憶とは?意味と3つの種類をわかりやすく解説
まずは、長期記憶がどのような記憶を指すのかを確認しましょう。
意味と種類を押さえておくと、英語学習のどの場面に関わるのかがイメージしやすくなります。
- 長期記憶の意味
- 長期記憶の3つの種類
長期記憶の意味
長期記憶とは、情報や経験が一時的な保持を超えて比較的長く残り、後から思い出して使える記憶のことです。
単に「長く残る記憶」というだけでなく、必要なときに取り出して使えるかどうかも大切な要素です。
記憶研究者のCowanは、長期記憶を膨大な知識と過去の出来事の記録と位置づけています。一方で、短期記憶との区別には、容量や時間による減衰などをめぐって議論が残るとも述べています。
OpenStaxの神経科学の教科書では、長期記憶は数十年続く場合があると説明されています。
ただし、長期記憶も忘れたり、思い出すたびに変化したりすることがあります。
「一度覚えたら永久に残る記憶」ではない点を押さえておきましょう。
長期記憶の3つの種類
長期記憶は一種類ではなく、性質の違う複数の記憶を含みます。
OpenStaxでは、意識して思い出せる宣言的記憶と、意識的に思い出さなくても働く潜在的記憶に大きく分けています。
代表的なものとして、意味記憶・エピソード記憶・手続き記憶の3つを表にまとめました。
| 種類 | 内容 | 英語学習での例 |
|---|---|---|
| 意味記憶 | 事実や概念などの知識 | 単語の意味や文法のルールを知っている |
| エピソード記憶 | いつ・どこでといった個人の体験 | 「昨日の授業でこの単語を習った」という記憶 |
| 手続き記憶 | 練習で身につき、言葉にしなくても実行できる技能 | 練習を重ねて素早く処理できるようになった英語の使い方との関連が考えられる |
英語学習での例は、記憶の分類を学習に当てはめた本記事での整理です。特に、単語の意味を知っていることと、会話ですぐに使えることは同じではない点を押さえておきましょう。
また、「英文法はすべて手続き記憶」のように、英語の力と記憶の種類を一対一で結びつけることはできません。


長期記憶と短期記憶・ワーキングメモリとの違い
長期記憶とあわせて調べられることが多いのが、短期記憶とワーキングメモリです。
3つの違いを押さえると、「覚える」と「使う」の関係が見えやすくなります。
- 長期記憶と短期記憶の違い
- 長期記憶とワーキングメモリの違い
- 「短期記憶から長期記憶へ移す」の正しい捉え方
長期記憶と短期記憶の違い
短期記憶は、情報を一時的に保持しておく働きです。
たとえば、聞いた電話番号を入力し終えるまで覚えておく場面が代表例です。
短期記憶は保持できる量が小さいことを示す研究がありますが、正確な上限については議論があります。「〇秒で消える」のように、時間だけで長期記憶と区切ることも研究上はできません。
一方で長期記憶は、短期記憶のような小さな容量の上限を前提にした概念ではありません。
ただし、「容量は無限」と実証されているわけでもない点には注意が必要です。
長期記憶とワーキングメモリの違い
ワーキングメモリは、情報を一時的に保持しながら、考えたり処理したりするのに使う仕組みです。
英文を聞くとき、前半の内容を覚えたまま後半を理解し、文全体の意味をつかむ場面がわかりやすい例です。
短期記憶が「保持」に焦点を当てるのに対し、ワーキングメモリは「保持+処理」まで含めて説明されることが多いです。ただしCowanは、ワーキングメモリの定義が研究者によって異なると整理しています。
OpenStaxのように、ワーキングメモリを短期記憶の一種として説明する資料もあります。
| 項目 | 短期記憶 | ワーキングメモリ | 長期記憶 |
|---|---|---|---|
| 主な働き | 情報を一時的に保持する | 一時的に保持しながら処理・操作する | 知識や経験を比較的長く保持し、後から使う |
| 時間 | 秒〜分程度で説明されることが多い(厳密な境界はない) | 課題に取り組んでいる間など | 数年〜数十年続く場合がある |
| 容量 | 小さいとされるが、上限の数値には議論がある | 注意や処理の負荷で制約される | 小さな容量の上限を前提にしない |
| 例 | 聞いた電話番号を入力するまで覚えておく | 英文の前半を覚えたまま後半を理解する | 英単語の意味、過去の経験、身についた技能 |
「7±2」のような容量の数値や、「20秒で消える」のような時間は、現在の研究では固定の値として扱えません。
表の時間や容量は、あくまで違いをつかむための目安として参考にしてください。
「短期記憶から長期記憶へ移す」の正しい捉え方
記憶の解説では、「短期記憶から長期記憶へ移す」という表現がよく使われます。
これは概略としては便利ですが、脳の中で情報を箱から箱へ運ぶという意味ではありません。
Cowanは、短期記憶を「長期記憶の一部が一時的に活性化した状態」と考えるモデルも紹介しています。また、長期記憶から思い出した情報が、いま考えていることに使われるという関係もあります。
英語学習でいえば、覚えた単語を会話中に思い出して使う場面がこれに当たります。つまり大切なのは、「移すこと」よりも「必要なときに思い出して使えること」です。
「長期記憶」として記憶が残るまでの3つの段階
「覚える」という行為は、1つの動作ではなく、いくつかの段階に分けて考えられます。
OISTの記憶研究ユニットも、研究課題として記憶の「記銘・想起・固定」を挙げています。
ここでは、記憶の過程を「符号化・固定・想起」という3つの観点に分けて説明します。ただし、記憶が必ずこの順に、独立した段階を1つずつ進むという意味ではありません。
たとえば、思い出した記憶が変化し得ることも知られており、各過程は互いに関わり合っています。
- 符号化:情報を記憶に取り込む
- 固定:記憶が時間をかけて安定する
- 想起:記憶を思い出して使う
符号化:情報を記憶に取り込む
符号化とは、見たり聞いたりした情報を、記憶として取り込む段階です。
単語帳を眺めて情報に触れたことと、後から思い出せる記憶ができたことは同じではありません。
CraikとTulvingの古典的な実験では、単語について異なる処理をさせ、後の記憶を比べました。
その結果、意味を判断した条件は、文字の形などを判断した条件より記憶に残りやすい傾向が示されています。
固定:記憶が時間をかけて安定する
固定とは、新しくできた記憶が時間をかけて安定していく過程です。
情報が後で使える状態で残っている「保持」とは、研究上区別して扱われます。
「海馬から大脳皮質へ移れば長期記憶になる」といった説明を見かけることもあります。海馬を含む領域は新しい記憶の形成に重要ですが、長期記憶全体が一か所に保存されるわけではありません。
OISTも、記憶の記銘・想起・固定の具体的な仕組みには、まだ解明されていない部分があると説明しています。
想起:記憶を思い出して使う
想起とは、長期記憶から情報を取り出して使う段階です。
OpenStaxでは、思い出す行為は記憶をそのまま再生するものではないと紹介されています。思い出した記憶が変化し得ることも、あわせて説明されています。
英語学習で特に意識したいのは、「読み直す」ことと「思い出す」ことの違いです。
Roediger & Karpicke(2006)の実験では、文章を繰り返し読む条件と、文章を見ずに思い出すテストを行う条件を比べました。
| 比較した点 | 結果 |
|---|---|
| 直後(5分後)のテスト | 繰り返し読んだ条件が有利になる場合があった |
| 2日後・1週間後のテスト | 思い出すテストを行った条件のほうが保持が高かった |
| 覚えた自信 | 繰り返し読んだ条件で自信が高まったが、時間を置いたテストでは思い出すテストの条件が上回った |
読み直すと内容がすらすら頭に入るため、「覚えた」と感じやすくなります。しかし、その感覚だけでは、後で思い出せるかどうかは判断できません。
「長期記憶」に残りやすくする3つの学習法
ここからは、人を対象にした学習実験で効果が確認されている方法を紹介します。
いずれも「必ず覚えられる」方法ではなく、条件によって効果が変わる点を押さえて取り入れましょう。
- 間隔を空けて学ぶ
- 自力で思い出す
- 意味と結びつけて覚える
間隔を空けて学ぶ
同じ内容を一度にまとめて繰り返すより、時間を空けて学び直すほうが、後の保持に有利になり得ます。
Cepedaらのメタ分析は、184本の論文にある317の実験を統合し、学習の間隔と記憶の関係を調べました。その結果、覚えておきたい期間が長いほど、効果的な学習間隔も長くなる傾向が示されています。第二言語の学習でも、同じ方向の結果が報告されています。
KimとWebbは、第二言語学習で間隔を空ける効果を調べた研究を統合しました。間隔を空けた学習はまとめて学ぶ学習を上回り、効果量は即時のテストでg=0.58、1日以上後のテストでg=0.80でした。
効果量gは、2つの学習法の差の大きさを示す指標です。「成績が58%・80%上がった」という意味ではありません。
また、この研究で扱われたのは主に語彙で、文法や発音の研究は少ないと著者自身が述べています。
なお、「1日後・3日後・7日後に復習する」のような決まった日程が、誰にでも最適だと示されているわけではありません。
覚えておきたい期間や教材に合わせて、間隔を調整しましょう。
自力で思い出す
答えを見る前に、自分の力で思い出そうとする練習を「想起練習」と呼びます。
前述のRoediger & Karpickeの実験のように、読み直すだけより、後の保持が高くなる場合があります。ここでいうテストは、採点される試験に限りません。
単語カードで答えを隠して意味を言う、例文を見ずに英語で言ってみる、といった練習も想起にあたります。
ただし、教材やテストの形式によって効果は変わるため、「思い出せば必ず定着する」わけではありません。思い出した後は、正解を確認することも忘れずに行いましょう。
意味と結びつけて覚える
符号化の段階で紹介したように、意味を考える処理は、表面的な処理より記憶に残りやすい傾向があります。
英単語なら、「apple=りんご」と眺めるだけでなく、自分の経験や知っている言葉と結びつけてみましょう。自分に関係する場面で例文を作ってみるのも一つの方法です。
ただし、これは研究を学習に応用した考え方で、「例文を作れば必ず長期記憶に残る」と示されたわけではありません。
| 学習法 | 英語学習での例 | 主な根拠 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 間隔を空けて学ぶ | 単語を一度に何十回も繰り返さず、日を空けて見直す | Cepedaら(2006)、KimとWebb(2022) | 適した間隔は、覚えておきたい期間などで変わる |
| 自力で思い出す | 答えを隠して、意味や英語表現を自分で答える | Roediger & Karpicke(2006) | 教材やテストの形式で効果が変わる |
| 意味と結びつけて覚える | 単語を自分の経験や場面と関連づける | Craik & Tulving(1975) | 英会話力への効果を直接測った研究ではない |
繰り返す回数は、増やすほど効率がよいとは限りません。
Nakataの実験では、日本人学習者98人が英単語と日本語訳16組を学び、1回の学習の中で思い出す回数を1・3・5・7回で比べました。
5回・7回の条件は成績がよかった一方、学習にかかった時間を考慮すると1回の条件が最も効率的でした。

「長期記憶」を英単語・英会話に活かす手順
研究でわかっていることを、英単語や英会話の学習に当てはめてみましょう。
ポイントは、最終的にできるようになりたいことに近い形で、思い出す練習をすることです。
- 使いたい方向で思い出す練習をする
- 「理解→想起→確認→間隔→実践」の5ステップで回す
- 一人で続けにくい場合は学習環境を整える
使いたい方向で思い出す練習をする
単語を思い出す練習には、「英語を見て意味を答える」方向と、「意味から英語を答える」方向があります。
Yanagisawa(2016)は、日本の大学生18人に、英単語風の架空の語24語を学ばせて練習方法を比べました。
意味を答えるテストでは、英語から意味を思い出す練習が、見て繰り返すだけの練習より成績が高くなりました。英語を答えるテストでは、意味から英語を思い出す練習が、ほかの2つの練習より成績が高くなりました。
| 目的 | 練習の方向 | 練習の例 |
|---|---|---|
| 英文を読んで・聞いて意味がわかるようになりたい | 英語→意味 | 英単語を見て、日本語の意味を答える |
| 会話で英語を自分で言えるようになりたい | 意味・場面→英語 | 日本語や場面から、英語の表現を答える |
ただし、この研究は語彙のテストで、自由に会話する力を測ったものではありません。単語を言えることと、会話ですらすら話せることは同じではない点も覚えておきましょう。
「理解→想起→確認→間隔→実践」の5ステップで回す
ここまでの研究をもとに、英単語や表現を覚える流れを5つのステップにまとめました。
単語や表現の意味と、使う場面を確認する
答えを見ずに、意味や英語表現を自分で答える
正解を見て、間違えたものを把握する
日を改めて、もう一度思い出す
会話や英作文で、実際に表現を使ってみる
この流れは、間隔学習と想起練習の研究結果と整合する考え方です。
ただし、5ステップ全体の効果を1つの実験で確かめたものではなく、本記事で研究を組み合わせて整理したものです。
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一人で続けにくい場合は学習環境を整える
間隔を空けて思い出す学習は、一人だと「いつ・何を見直すか」の管理が負担になることもあります。


その場合は、学習内容を振り返る機会を、スクールやコーチングなど外部の仕組みで確保するのも一つの方法です。
英語コーチングのLinkUpでは、次のような学習の仕組みを案内しています。
| 仕組み | 内容 |
|---|---|
| 週1回のマンツーマンレッスン | 学習の進捗管理と1週間の振り返り |
| 定着度チェック | 1週間の学習内容の定着度をチェック |
| 瞬間英作文・英会話 | 学習内容を使った瞬間英作文や英会話の練習 |
| グループレッスン | 週4回以上の少人数グループレッスン |
| 専用アプリ「cactus」 | 個別の学習プラン、発音添削、学習量・達成率のチェック |
学んだ内容を振り返ったり、自分で英語を組み立てたりする機会がある点は、本記事で紹介した想起の考え方と共通する部分です。
なお、上記はLinkUpが案内している内容で、長期記憶への効果を検証したデータではありません。

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長期記憶に関するよくある質問
まとめ:長期記憶の仕組みを知って英単語を忘れにくくしよう
長期記憶とは、情報や経験が比較的長く残り、後から思い出して使える記憶です。
本記事のポイントは次の3つです。
- 長期記憶は「長く残る」だけでなく「後から思い出して使える」記憶で、永久に残るわけではない
- 短期記憶は一時的な保持、ワーキングメモリは保持しながら処理する仕組みとして説明されることが多い
- 英単語は、間隔を空けて自力で思い出し、使いたい方向で練習すると記憶に残りやすくなり得る
まずは今日覚えた単語を、答えを見ずに思い出すところから始めてみましょう。数日後にもう一度思い出し、会話や英作文で使ってみることで、使える英語に近づけていきましょう。


